その昔、川に橋をかけた男がいた。
この橋はとても狭く小さいものだったし誰もが望んだものでは無かったが橋は今でも現存している。
荷馬車一台がギリギリ通れるその橋は落下防止の手すりも無かったし木造で耐久力もあまり無い。
何年もかけて一人の男がこの橋を黙々と作った。
雨の日も、日照りの日も、寒い日も、暑い日も、悲しい日にも最愛のヒトとの別れの日にも、夜空が満月で満たされた日にも、眩しすぎて目も眩むほどの太陽が登る日にも。
「こんなところに橋を作ってどうするんじゃ」
「下流にもっと大きい橋があるだろ」
「あいつは気でも狂ったか」
そんな罵詈雑言を気にせず、ただただ作った。
なにか使命感を感じていたのだろうか?
橋をかける理由、遠い過去にここに橋をかけたいと思った理由、そんな理由は長い年月で忘れてしまった。
そこには淡い記憶、心を締め付ける記憶、燃えるような感情の記憶・・・
しかし忘れてしまった。
橋は何度も何度も完成を見ること無く男の人生と命を削るかの如く未熟な技術により壊れ、豪雨で流され、心無いヒトの感情に壊された。
川とは水を運び、ものを運び、命を運ぶ、生活には欠かせないものでもある。
しかし川は道を隔て、町や村を隔て、国と国を隔て国境となり、人と人とを隔てた。
そして命をも隔てる。
あの時、一秒でも早く川を渡れたのなら・・・
下流の橋が豪雨で壊れていなければ・・・
大切な命を運べる橋があれば・・・
この橋が完成して暫くして男は一人で亡くなった。
男が命をかけた橋は未来を運んだ。
戦や災害からの避難経路として使われ
隣町の恋人たちを出会わせ
手を取り渡ると思いの叶う「思い橋」として
嫁入りで隣町まで行く「幸せの橋」として
小さい子ども達はこの橋を渡って何人も何年も学校へ通った。
子どもが病気になった時、下流の混み合う橋を回避するための近道として使われた。
難産で母子ともに危険な時に病院への近道として使われた。
何人ものヒトを運び、ヒトを繋ぎ、何人もの命を救った。
月日が経ち、近代的な治水のお陰で川幅はどんどん狭くなった。
それでも橋は残った。
車が通るようになり「この橋では危ない」という周りの声に
増強されて橋は残った。
男が作った橋はヒトを運び、ヒトを助け、未来のヒトに増強され今もまだ現存している。
地図には無い橋、男が作った橋は今では短くなり知るヒトも少なくなりながらも命を繋ぐ。
未来になにを届けますか?